• 染色家をするSさん

    大学で高校の美術教諭の免許を取得した後に、加賀友禅の工房に見習いとして入ったという異色の経歴の持ち主のSさんに染色家という仕事の魅力について教えていただきました。

    Sさん「もともとは学校の美術の先生になるつもりでいました。でも、教育実習を経験して自分は本当に人にものを教えるのに向いているのかって思うようになったんです。けっして教えるのが嫌いなわけではないのですが、それ以上に自分一人でアトリエにこもって絵を描いている方が好きでしたし、そういった特性をもっと生かせる仕事があるんじゃないかって考えたんです。確かに絵を描くのは好きだけど、画家やイラストレーターではなく、もっと生活に密着したモノを作る仕事はないかなと探し始めました」

    そうして辿り着いたのが、染色家という仕事でした。

    Sさん「小さい頃から、わりと着物を着せてもらう機会が多かったのも影響していると思います。母も祖母もいわゆる着物道楽の人で、美しい着物を間近に見せてもらったことに感謝しています。なかでも加賀友禅になぜか惹きつけられることが多かったので、思い切って弟子入りしてみることにしたんです」

    もともと芸術系の大学で学んでいただけのことはあり、Sさんはめきめきと頭角を現し、工房の先生が描いた下絵への彩色をまかされるようになったのはすぐのことでした。

    「彩色は練習なしの真剣勝負なのでかなり緊張しました。1枚1枚が勉強でしたし、上達しているのを実感できた時は何よりのよろこびでした」

    そんなSさんは今では独立して小さいながら自分の工房を構えています。

    「最近では下絵から自分で描いていますが、大学時代の写生をアレンジしてみたり、今まで勉強してきたすべてのことが結びついたような気がします。これからは加賀友禅をはじめとした日本の伝統工芸の素晴らしさを世界に向けて発信することができればと思っています」